IPFの診断・治療
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IPFの診断・治療

IPFが疑われる場合は、まず可能性のある原因や関連する状況(繊維性過敏性肺炎やじん肺などの環境・職業性暴露に起因する間質性肺疾患、膠原病に伴う間質性肺疾患、薬剤性肺傷害など)を検索・除外します。鑑別には、十分な問診および身体所見が重要です。画像所見でUIP(usual interstitial pneumonia)パターンを認めた場合は蜂巣肺所見が必須ですが、この所見が認められた場合、明らかな原因が認められなければ多くの場合、気管支鏡検査や外科的肺生検を行わなくてもIPFと診断可能です。ただし、UIPパターンを認めても、確定困難な膠原病や繊維性過敏性肺炎など二次性のUIPが疑われる場合は、気管支鏡検査(気管支肺胞洗浄、経気管支肺生検、経気管支クライオ肺生検)などを検討してもよいとされています。

わが国では、2004年から独自の重症度分類(JSC)がIPFを含めた特発性間質性肺炎に対する厚生労働省指定難病の認定基準として用いられています。安静時動脈血酸素分圧(Pa02)と6分間歩行試験後の経皮的酸素飽和度(Sp02)最低値を組み合わせた分類です。これらは、慢性呼吸不全によるADLを評価する主要項目であるので、ADLに重きを置いた重症度分類といえます。



A・治療目標
IPFは不可逆的な肺の線維化のために治癒は困難な状況であり、疾患の進行抑制による「生命予後の改善」が治療の最終目標となります。また、我が国の報告では、その死因の40%は「急性増悪」、24%は「慢性呼吸不全」、11%は「肺癌」といわれています。したがって「生命予後の改善」には、主な死因とされる「急性増悪」「慢性呼吸不全」「肺癌」の対策を目標とすることがIPF克服にとって最も重要と考えられています。
B.治療開始時期・診療間隔
IPFは多様性のある疾患(heterogeneous disease)とされ、進行速度には個人差があります。
2つの抗線維化薬が承認されていますが、その推奨の度合いは強いものではなく、また種々の副作用や薬剤費を考慮すると治療開始時期は慎重に検討されるべきです。さらには、患者の年齢やIPF以外の合併症も考慮する必要があります。
C.治療の評価法
評価指標(エンドポイント)は、治療行為の有効性を示すための評価項目です。臨床試験のエンドポイントは、治療の目標・目的に合い、なおかつ客観的に評価できる項目が望ましいとされています。治療介入による臨床試験で本来求めるべき結果、アウトカムは、「生命予後の改善」「死亡率の低下」「疾患の発症率の低下」「入院率の低下」「健康状態・健康関連QOLの向上」「副作用の低減」などで、これらの評価項目は真のエンドポイントと呼ばれています。

1.急性増悪
IPFの急性増悪の年間発症率は5〜15%とされています。急性増悪はIPFの死因としても重要です。急性増悪の診断基準は、国内外で幅がありますが、最近では原因不明のみでなく誘因のあるものも急性増悪と認識されています。(例:感染、処置後/術後、薬剤性、誤嚥など)
2.気胸・縦隔気腫
気胸や縦隔気腫は、IPFの経過中にしばしば起こる合併症であり、急激な胸痛や呼吸困難の悪化を認める際には考慮する必要があります。
IPFの予後不良因子でもあり、ステロイド使用により合併頻度が高くなり、難治性となる可能性が高いです。
3.肺癌
IPFでは5~30%に肺癌を合併、相対リスクは7〜14倍とされ、肺癌の独立した危険因子と考えられています。また、IPFの重要な予後因子のひとつです。
日本人IPF患者の死因としても、肺癌は急性増悪、慢性呼吸不全に次ぐ第3位(11%)です。
IPFの経過観察においては、肺癌発症に注意が必要ですが、背景の間質性陰影のため、胸部X線のみでは肺癌の発見が遅れる可能性があり、適時、胸部CTによる注意深い評価が必要です。
4.肺感染症
IPFにおける蜂巣肺などの肺線維化病変には、アスペルギルスや抗酸菌が感染することが経験されています。さらに、ステロイドや免疫抑制薬の使用下では易感染状態から、細菌性肺炎、ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス肺炎などのリスクが高くなります。
しかし、感染症のリスクが上昇する投与量/投与期間について、また予防的治療法は十分確立されていません。
ニューモシスチス肺炎に対しては、ST合剤やアトバコンの内服、ペンタミジンの吸入などの予防的投与を考慮します。
5.肺高血圧症
IPFでは、肺高血圧症を合併することがあり、合併した場合、予後不良であることが報告されています。
特に、気腫合併肺線維症(CPFE)では合併頻度が高く、予後不良です。肺高血圧症の合併は、高度の労作時呼吸困難や頻脈を認める場合、FVCに比較してPaO2やDLcoの低下が大きいこと、胸部CTにおける肺動脈径/大動脈径比が大きいこと、心エコー所見などから推察されますが、確定診断には右心カテーテル検査が必要です。
6.胃食道逆流
胃食道逆流(gastroesophageal reflux:GER)はIPFにしばしば合併し、不顕性誤嚥によるIPFの増悪も想定されています。制酸薬治療あるいは逆流防止手術は、IPF患者の呼吸器関連アウトカムを改善させるとする十分なエビデンスはないと結論付けられています。ただし、GER症状があるIPF患者においては、GER関連アウトカムの改善のために制酸薬治療は適応となるとしています。また、ステロイド使用下では副作用対策としてプロトンポンプ阻害薬などを併用することも多く見られます。

1.禁煙
喫煙は間質性肺炎の発症、病態悪化のリスクであり、さらにはCOPDや肺癌、心疾患や脳梗塞などの原因ともなるため、必ず禁煙を行います。また、酸素療法を行っている場合、喫煙は火災、火傷事故につながるため、禁煙が必須です。喫煙はIPFの独立した危険因子であり、また、IPF患者における喫煙者と非喫煙者の予後を比較した報告では、喫煙者のほうが予後不良とされています。咳嗽の軽減、体重減少の防止、感染予防からも禁煙は重要です。
2.感染予防
感染予防として肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、新型コロナウイルスワクチンの接種が推奨されます。IPFの急性増悪は、明らかな原因菌が証明されなくとも、上気道感染症状がきっかけとなる場合が多く、冬季に多いとされています。
そこで、外出時のマスクの着用、手洗い、うがいの励行、上述のワクチンの予防接種などを勧め、空気の悪い場所や人ごみを避け、感冒症状のある人との接触を避けるようにします。
3.在宅酸素療法
慢性的に線維化が進行し慢性呼吸不全(低酸素血症)になっている場合、あるいは肺高血圧症を合併している場合には、在宅酸素療法の対象となります。酸素投与量の設定に際しては、IPFは安静時と比べて労作時に著明な酸素飽和度の低下が起こりやすい点を考慮し、COPDに比して労作時に高流量を必要とすることが多く、携帯酸素を外出などの労作時に使用することをみられたくないという心理もありますが、労作時には酸素を増量して使用すべきで、IPFでは終末期でない限り、二酸化炭素の蓄積を考慮する必要はなく、十分な流量の酸素吸入を行うことが重要です。
4.呼吸リハビリテーション
エビデンスが確立されているCOPDと比較し、IPFにおける呼吸リハビリテーションの効果は明確にはされていませんが、運動耐容能、労作時呼吸困難、健康関連QOLの改善が報告されており、IPFの治療に関する国内外のガイドラインにおいても、エビデンスは弱いながらも推奨されています。 IPFでは下肢の大腿四頭筋筋力の低下が運動耐容能低下に関連しており、リハビリテーションは下肢の運動療法が主体となります。また、IPFをはじめとする間質性肺炎患者は胸郭の可動性が低下するため、肺活量や1回換気量の低下をきたし、その結果、少ない1回換気量で換気を維持しようとするため、代償的に呼吸数が増加する浅く早い(rapid shallow)呼吸になっており、胸郭のストレッチなどにより可能な限り胸郭の動きを維持していく必要があります。
5.福祉
IPFは厚生労働省の指定難病であり、外科的肺生検が未施行でも胸部HRCT所見を基本とした診断が許容されています。難病医療費助成制度が2015年1月に改訂され、重症度が比較的軽いI、Ⅱ度であっても、3カ月以上医療費が高額であれば申請可能となり、早期治療に対する患者の負担軽減がなされています。低呼吸機能・慢性呼吸不全症例は身体障害者(呼吸器機能障害)に該当するので、該当する等級を確認したうえで申請を検討します。抗線維化薬を処方される機会が増え、経済的負担の増大が危惧されるため、福祉政策は重要です。
6.精神的配慮
予後も含めた疾患の説明と検査の意義を十分に説明を受けます。
IPFは癌に準じて予後が不良であり、治癒に向かう治療法はなく、終末期医療について、挿管・人工呼吸についても、事前に家族内でよく相談しておく必要があります。外科的肺生検では危険性と利益を十分に説明を受けることが重要です。IPF患者は精神的健康も障害されており、特に呼吸困難や健康関連QOLに障害がある患者ではうつ状態であるとの報告もなされており、精神的なサポートも重要です。
7.その他
規則正しい生活を基本とし、安定した室温と適度な加湿により、快適な生活を心がけます。外出時には衣類の調節をして温度差を少なくします。また、身体活動性を高めるべく、積極的な社会参加や趣味を持つなど活動的な生活習慣を維持します。 body mass indexや体重減少が予後とも関連している点も考慮し、定期的な体重測定を日常管理として行い、体重減少に注意します。肺高血圧症を合併している患者では、塩分制限をします。高齢者は、咳嗽が肋骨骨折の原因となることもあり、注意が必要です。
梅屋敷さわもとクリニック 院長
澤本 修一
帝京大学医学部卒業後、都立広尾病院呼吸器科、帝京大学附属病院第二内科、社会保険都南総合病院に勤務。2002年に梅屋敷診療所を開設し、現在は梅屋敷さわもとクリニック院長として診療を行っています。呼吸器、特に気管支喘息の研究経験を生かし、呼吸器疾患やアレルギー疾患の診療に取り組んでいます。
主な資格
認定内科医・認定産業医
身体障害者福祉法指定医(呼吸器機能障害)
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